大山 哲生

ドクターインタビュー

大山 哲生

診療科について

顎顔面補綴科では、どのような治療を行うのでしょうか。またどういった方を対象にしているのでしょうか。

顎顔面補綴科[がくがんめんほてつか]では、腫瘍や外傷などで歯や歯の周囲の骨だけではなく、顎の骨までも広く失ってしまった患者さんや、唇顎口蓋裂などの先天異常がある患者さん方などを治療対象としています。そして、それらの患者さんに、特殊な入れ歯(顎義歯[がくぎし])等を製作し、食べる(咀嚼)・話す(発音)・飲む(嚥下)等の機能回復を図ることを目的とした治療を行っています。

補綴[ほてつ]とは耳慣れない言葉と思いますが、失った部分を補い綴るという歯科の中ではいわゆる差し歯や入れ歯などに関わる治療をする分野です。そして、顎顔面補綴[がくがんめんほてつ]は、その中でも失った部分が多い場合に用いる用語となります。

治療の流れについて教えてください

基本的に通常の歯科治療と同様の治療の流れとなります。

初診→各種検査や病状確認(問診、視診、触診、対診、X線検査、模型検査等)→治療方法説明→顎顔面補綴治療(直ぐに着手出来ない場合は顎義歯等に関わる準備の治療から始めます。)→メインテナンス

診療について

先生の歯科医師としてのモットーや心がけていることを教えてください

モットーは、標準的な治療方法を基本にしつつ、新しい治療技術を積極的に取り入れることも恐れずに、患者さんと共に全力で治療に立ち向かうことです。そのためにはまず患者さんが現在困っていることの解消を一番に治療方法の提案を行います。そしてその治療方法は、出来るだけ良い状態が将来に渡って続くように、また状況変化に対応できる(出来るだけ修理が可能な)設計の装置製作が基本となります。

しかし、現代は高度に発達した情報化社会で、患者さんも賢く自分の受けたい治療を色々な情報を基に選ぶことが当たり前の時代です。私達も多様なニーズに対応して治療にあたることが要求されています。しかし、希望された治療方法が、歯科医師として、そして歯科補綴や顎顔面補綴を専門分野とするプロとして、どうしても患者さんの将来に渡る口腔機能の保持のためにならないと判断する場合もあります。そんな場合でも、とことん相談を行い、納得の行く解決策を模索することを心がけています。

経緯について

先生が歯科医師を志したきっかけとこの専門分野を志した理由を教えてください

父親が歯科医師(開業医)であり、子供の頃は仕事としてのサラリーマンがイメージできず何となく医療系を目指していました。また自宅開業だったので、夜な夜な父親の作業台の横に座って歯を作っているのを見たり、実家に作業に来ていた大工さんやペンキ屋さんに弟子入り(邪魔だったと思いますが)したりしつつ、プラモデルに熱中した少年時代を過ごしていました。そして、大学を選ぶ際には、医療系の中でも患者さんの死に直面せず、大好きなもの作りも出来そうと考えたのが、歯科医師を目指すきっかけです。

卒業して進路を決めるときには、憧れる先生が在籍していた科であったことも大きな要因だったのですが、プラモデルをパーツから作れるような科という、今から考えると極めて不純な動機で補綴科を選びました。そして卒後10年を過ぎた頃に、補綴治療を専門としつつ一般的な歯科治療もこなせる自信がつき、そろそろ大学を辞めて開業しようかと思っていたところ、腫瘍で大きく顎の骨を失った患者さんに出会ったことが、この専門分野を志す大きな転機となりました。それは文献を読み漁ったり、先輩方に聞いたりしてなんとか顎義歯を装着し、調整のための来院時でした。涙ながらに私の手を握り“手術後に大好きな蕎麦が食べられなくなって寂しかったけど、もう諦めていたんだよ。でも、新しい歯で2年振りに食べられたよ!旨かったよ!ありがとう先生!”と。

自分が学んできた知識と技術が患者さんにこんなに喜んで貰えることに衝撃を受け、患者さんのためにまだ大学で勉強することがあると感じた一瞬でした。しかし忙しい日常業務に追われ、専門分野の系統だった臨床教育が受けられないと悩んでいた時、米国UCLA顎顔面補綴科に1年間留学をさせていただく機会を得られ、その運命は決定しました。そして帰国後数多くの患者さんを担当するようになり、現在に至っています。

まとめ

日本大学歯学部付属歯科病院の好きなところを教えてください

各科の垣根が低く風通しが良いことです。他病院だと診療科間の垣根が高い場合もあるとの話をよく聞きますが、高度に専門化された診療科間のチーム医療体制が、安心安全で一定以上の治療効果の担保には重要であることは言うまでもありません。当病院での顎顔面補綴治療では、主となる顎顔面補綴科、口腔外科および摂食機能療法科のみならず、全ての科や原疾患を担当する紹介元の病院との連携も密にとること重要視しています。さらに、顎顔面補綴学会認定歯科衛生士を含む歯科衛生士や匠の技を持つ熟練の歯科技工士、そして受付スタッフも含む全員が患者さんのため働く体制であることが明確であることです。また、アンケート等を通じて患者さんの声にも耳を傾け、日夜自らを省みて、システムを更新し進化することを恐れません。

先生のこれからの目標や夢について教えてください

顎顔面補綴治療は、かなり多くの専門的な知識や技術を必要とする治療である場合が多い補綴治療の一分野です。しかし、一般的な補綴治療の専門知識と技術を身につけることで、学ぶことは多いですが、その知識や技術のハードルはだいぶ低くなります。そして、私は患者さんの笑顔を取り戻すために仕事をする医療職を育てる教員としての立場もあります。そこで、今後更に多くの患者さんに笑顔を取り戻してもらうためには、自らの知識と技術の更なる向上は言うまでもないですが、それ以上に今まで学んできたことを後進に伝えることが、次の大きな目標となると考えています。

また専門的な治療は、どうしても他科との連携が取りやすい大学病院等での治療が今後もメインとなると思います。しかし患者さんの高齢化等に伴って大学病院等に通院が困難となる場合も増えてきました。そこで患者さんのためにも地元のかかりつけ医でのメインテナンス治療も可能となるように地域医療との連携の輪を広げる活動も行っていきたいと考えています。

患者さんへのメッセージをお願いします

私達は、辛く大変だった外科治療にこれから立ち向かう、そして今戦っている患者さん達に、食べて・飲んで・話す機能を取り戻す治療をするために日夜研鑽に励んでいます。私達と共に頑張りましょう!

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